当店のチーフ、会田政博のこと
2022/09/02
《茗圃》の現在の料理長は、会田政博である。会田が専門学校時代にアルバイト先として『福臨門』を選んだのは、このレストランが香港を代表する広東料理の専門店だったからではなく、求人募集に応じて先生から紹介されたという、ほとんど偶然といってもよい理由だった。当初、会田は『福臨門』の名前すら聞いたことがなかった。それでも、中華料理を専攻すると決めていた会田にとって、『福臨門』でのアルバイトはいい経験になるのではないかと考え、働いてみようということになった。そうして、そこで、会田は、人生の師となる「呉 錦洪」と出遭うことになるのである。
会田が料理人になろうと決心したのは、美味しい料理は人を幸せな気分に、豊かな気持ちにさせてくれるからだった。人は食べずに生きてはいけない。食べることは命を繋ぐことである。しかし、文明を有する人間にとって、食べることの意味は、それだけではない。すぐれた料理は、人を感動させる力を持っており、そうした魅力ある料理を作ることに、人類は多大な労力と財力とを投入してきた。とりわけ中国においては、食の発展・進化のために想像を絶するほどの蓄積がなされてき、その結果として、数多くの偉大な料理人を輩出し、伝説的な料理が誕生してきた歴史がある。会田は、食は文化であり、芸術であると考える。そのために努力を傾注する意義があり、価値があると信じている。
会田の師匠「呉 錦洪」は、「食在広州(食は広州に在り)」といわれ、中華料理のなかでももっとも人気の高い広東料理の真髄を体得した、広東料理界屈指の名厨師である。広東料理の何たるかを知り尽くした達人に師事し、その極意を伝授するという「縁」を得ることが出来た者は、限られる。会田は、その得難い「縁」を掴むことが出来た、誠に幸運な料理人だ。食材の見分け方、包丁の入れ方、出汁の摂り方、仕込みのノウハウ、蒸しもの、焼きもの、炒めもの、それぞれの調理器具の特性を活かした調理技術を具に見、知り、授持することを得た。それだけでも有り難いことであろうが、あろうことか、呉チーフが、永年勤めた『福臨門』から《茗圃》に移籍するに際し、いっしょに来いと声をかけてもらい、師と行動をともにした。これこそ、真の「縁」というものではないか。
私は、呉から「《茗圃》についてこい」と云われた時に迷いはなかったか?」と会田に聞いたことがある。会田は「師匠に言われたなら、ついていこうと思った。」と答えた。そうか、なるほど師弟関係というのはそういうものか、と思った。
私は、会田によく言うのだが、「名古屋の誰でもいい、いや、東京の誰かでもいい、師匠の名を問うた時に、「呉 錦洪」ほどの名をあげることができる者がいるだろうか?」、「この縁が、どれほど在り得ないものなのか、わかっているか?」、本当にうらやましい「縁」だと思う。
会田が目指す料理は、「呉 錦洪」の料理がそうだったように、素材の旨味を活かした、真っ当で、自然な、しかし、説得力があり、必然性のある、広東料理らしい料理だ。コース料理では「起承転結」のドラマを封じ込め、単品料理では「一品入魂」の世界を完結させる。そして、名古屋市中区栄の地に、広東料理の聖地を打ち建てる。さらには、この師直伝の技を、魂を、次の世代に伝承する。そうすることによって、はじめて、師の「恩」に応えることが出来る。まだまだ道半ばではある。今後ますますの精進を期待したい。
----------------------------------------------------------------------
茗圃
〒460-0008
愛知県名古屋市中区栄2丁目12-22
電話番号 : 052-253-7418
栄のランチは本格的な飲茶
栄のディナーなら本場の広東料理
----------------------------------------------------------------------